快晴満月無風

メモ・自由研究

快適歩行7:無風

無風とは? 風の無い状態のことだろう。定義が気になったので調べてみたが、まず日本国語大辞典によると、こうだ。

 

む‐ふう【無風】
〘名〙
①風がないこと。気象用語では、煙がまっすぐに上がる程度の気流状態をいう。
*竹沢先生と云ふ人(1924−25)〈長与善郎〉竹沢先生東京を去る
「全くの無風にじっとして座談をしてゐる中にもじりじりと膏汗が全身ににじむやうな暑さだった」
②他からの影響を受けず、波乱が全くないことのたとえ。平穏であること。
*青年(1910−11)〈森鴎外〉一七
「おちゃらの顔の気象は純然たる Calme が支配してゐる。無風ムフウである」
能楽で、目立った美しさや特別の技巧のないこと。内に美をひそめること。
*至花道(1420)皮・肉・骨の事
「既に至上にて、安く、無風の位になりて」 

 

③の能楽での用例にはちょっと驚いた。

快晴満月無風というこのブログのタイトルは「夜間飛行」からの引用だが、快晴満月無風という言葉の響きに美しさを感じた私のセンス、結構いいんじゃないか。などと。

 

さて、風の状態を細かに表現する必要性があった人々といえば、船乗りである。

1805年にイギリス海軍のフランシス・ボーフォートが、その経験から「風が吹いた時に陸上・海上で観察される現象」によって風を0~12の13段階に分類した。これがビューフォート風力階級表と呼ばれるもので、20世紀になってからはどの程度の風速が相当するかも定められ、国際標準となった。

その中で無風は「0~0.2m/s」であり、陸上であれば「煙はまっすぐ昇る」、海上であれば「水面は鏡のように穏やか」が該当する。水上ではなく海上だと鏡のようにはならないのでは?と思ってしまうが、どうも原文でも「sea」、海となっているようである。

 

ちなみに今の日本の気象庁が用いている気象庁風力階級表も、ビューフォート風力階級表を改正したものだそうな。

ビューフォート風力階級 - Wikipedia

風力階級表(気象庁風力階級表) - tenki用語辞典 - 日本気象協会 tenki.jp

快適歩行6:上と下では意味が違う

 本格的なIQテストを受ける機会があった。

 臨床心理士と差し向かいで2時間ほどかかり大変だったが、しかしゲームのようで面白くもあった。そして受けてみて感じたのは、「知的能力の低さ」や「知的能力の偏り」を調べるには有用だが、「知的能力の高さ」を調べるにはあまり適さないということである。

 

 

 そもそも知能を検査で調べようという発想は、1905年にフランスのビネーが作成した検査に始まる。その目的は天才児を探そうとかクイズ番組を盛り上げるネタにしようとかいったことではなく、「通常の授業についていけない子供を判別する」ことだった。つまり知的能力の「低さ」を調べようとしたのである。

 

 またIQは一般に「知能指数」と訳されるが、IQは正式にはintelligence quotientな

ので、直訳すると「知能商」となる。商というのは「ある数を他の数で割って得た値」である。

 ではIQは何を何で割った値なのかというと、精神年齢を生活年齢で割った値だ。検査で精神年齢を求め、生活年齢(実年齢)で割った値を100倍したのがIQである。

 これはつまり「10歳児相当の精神年齢の10歳時」は普通だが、「10歳児相当の精神年齢の20歳」は困りものということである。

 

快適歩行5:左右対称に笑う

 人間の顔、そして顔の動きによって作られる表情。どちらも基本的には左右対称である。そのため相手から左右非対称な表情を向けられると、そこには意図的なものが含まれていると人は感じてしまう。そんな話を解剖学の講義で聴いた。

 

 左右非対称な表情というと、代表例はウィンクだろう。確かに片目だけを閉じる仕草は「何かの意図」があることを伝える。

 片方の唇だけ持ち上げる笑顔も、何か皮肉が込められていたり、真面目に取り合っていなかったり、といった印象を与える。あるいはそういう印象を与えたくて、わざとそういう笑い方をするわけだ。得心のいく話である。

 

 左右非対称な表情といえば、内科を教わった美人のA先生を思い出す。

 A先生は以前に軽い脳梗塞を起こしたことがあるそうで、その時のことを話してくれた。頭痛や目眩といった分かりやすい予兆は全く無かったが、休憩中に牛乳を飲んだら左の唇の端から少し垂れた。気を付けて飲み直してみても、やはり零れる。「これは顔面神経に麻痺が起こっている」とすぐに気付いて、自分を入院させたそうである。

 幸いなことにそれ以上の症状は現れず、症状が悪化しないよう数日間経過を見ると、A先生はすぐ仕事に復帰した。顔面神経の麻痺もほんの僅かに残っただけで、飲み物が垂れたりするようなことは全く無くなったが、疲れているとA先生の左の口角は少しだけ下がっている時がある。

 それは本当に少しだから、A先生が顔面神経麻痺の話をしてくれなかったり、講義中にA先生の顔をじっくり見る機会が無かったりしたら、絶対に気付かないだろう。

 

 ほんの少し下がった口角とそこから零れる牛乳を想像する。

快適歩行4:拝啓遠城寺先生

 遠城寺式・乳幼児分析的発達検査表といって、「正常な乳幼児は生後〇ヵ月頃だったらこのくらいのことが出来ますよ」といったことがまとめられたものがある。例えば寝返りできるようになるのは5~6ヵ月頃だとか、つかまり立ちができるようになるのは8~9か月頃だとか。
 なぜそんなことをまとめてあるのかというと、もちろん疾患・障害を発見したりする上で役立つからである。またリハビリを進める上でも「この子は4歳だけど、発達のレベルでいえばまだ2歳だから、2歳半くらいのレベルを目指してリハビリをやろう」といった風に考える上で役立つ。


 この遠城寺式はなかなか覚えるのが厄介なのだけれど、ふと「どこかに遠城寺というお寺があるのだろうか? もしあったら参拝したい」と思った。もしそこで学問成就を祈願したら、少なくとも遠城寺式だけはバッチリと頭に入りそうである。
 そしてネットで検索してみたが……どうやら日本にはないようだった。残念。


 遠城寺式・乳幼児分析的発達検査表という名称は、遠城寺宗徳という開発した医師の名前を冠している。wikipediaによると、この人は九州大学の学長まで勤め、勲一等瑞宝章を受けている。立派な医師らしい。


 そこで姓の由来を調べられるホームページで検索してみると、

 

"円城寺と語源をともにする。現千葉県北部である下総発祥ともいわれる、千葉氏族。佐伯毛利藩にみられる。"

 

と出てきた。

 

 円城寺で検索すると

 

"現千葉県北部である下総国印旛郡円城寺が起源(ルーツ)である、桓武天皇の子孫で平の姓を賜った家系である平氏桓武平氏)千葉氏流がある。小田原藩、現佐賀県長崎県である肥前などにもみられる。"

 

と出てきた。

 

佐伯毛利藩というのは大分にあった藩だそうで、遠城寺宗徳先生も大分県出身。
おお、ちゃんと合っているものだな。


 ちなみに遠城寺という苗字の方は先ほどのホームページによると日本全国で30人ほどしかいないそうである。もしどこかで遠城寺さんとお会いしたら、おそらく遠城寺先生ゆかりと考えて間違いないだろう。
 遠城寺先生(の開発した発達検査表)にはお世話になりました……と皮肉のひとつも申し上げたい。

 

 しかし待てよ? 勲一等をもらうような医師の子や孫だとすると……と調べてみると、やはり医学の道で活躍されているようであった。
 もし遠城寺という方と会ったなら、皮肉ではなく「お世話になっております」と言うことになりそうである。

歴史:1900年・義和団事件

 拳法を修練した宗教結社である「義和団を中核とした排外運動と、それに続いて起こった戦い。
 中学・高校で習った時はなんとなく「正義の草の根レジスタンス運動」というイメージを持っていたが、大好きだったジャッキー・チェンカンフー映画のイメージだろう。

 義和団は「扶清滅洋」を唱え、キリスト教会や教徒を襲い、列強の公使館を包囲して時には外交官を殺害した。きっと強い排外感情で戦っていたのだろうな、という点では日本の攘夷に似ている。

 あと日本の公使館の杉山彬という書記生(書生ではなく書記官)も殺害されているのは知らなかった。

 義和団は北京に入って各国の公使館を包囲したが、連合軍(イギリス、アメリカ、ロシア、フランス、ドイツ、オーストリアハンガリー、イタリア、日本)に敗北した。
 翌1901年には北京議定書が締結され、莫大な額の賠償金が課された。
 清朝の歳入が8800万両強に対し、課された賠償金の総額は4億5000万両、利息を含めると9億8000万両とのことである。
 総額で歳入の5倍以上、利息込みなら11倍以上である。

 平成29年度の日本の一般会計歳入がおよそ97.5兆円なので、487.5兆円の賠償金を請求され、利息込みでは1072.5兆円になったという計算だ。
 ……本当に払ったんだろうかと疑いたくなるような額だ。

快適歩行3:スカスカの骨とギチギチの脳

 鳥の骨は空を飛べるように軽くなっている、というのは有名な話だ。鳥の骨はスカスカで、梁のように三角形の構造を巡らすことで強度を確保している。

 しかし実は人間の骨もそれほどギッシリ詰まっているわけではなく、骨の梁によって強度を確保する構造になっている。ただ鳥と人間ではスカスカ具合に相当差がある。

 人間の骨でいうと、頭部には結構スカスカ系の骨が多い。前頭骨、篩骨、蝶形骨、上顎骨などだ。空気を含むような構造になっているので含気骨と呼ばれる。脳が発達して頭部が重たくなったので、飛ばないにしても軽い方が有利だったのかも知れない。

 ナショナルジオグラフィック日本版の2月号には鳥類の頭脳に関する特集があり、道具を作る、過去の経験から問題解決するなど、鳥類はこれまで考えられていたよりずっと賢いという話が紹介されていた。
 鳥は案外に脳の身体に占める比率が大きいそうである。しかも驚いたことに、脳の神経細胞の密度は人間よりも高いらしい。鳥は空を飛ぶために骨をスカスカにしても脳はスカスカにしなかった、どころかギチギチに詰め込んだわけだ。

 ちなみに動物の身体と脳のバランスについては、脳化指数という指標を見つけた。体重と人間は7.4-7.8以上と高いが、カラス1.25に対してイヌ1.2である。

 

脳化指数 - Wikipedia

快適歩行2:無定位運動症と無定位運動性

アテトーシスathetosisという語はギリシャ語由来で、

 

a(否定の接頭辞)- thetós(置く)- osis(病態や状態を意味する接尾辞)

 

という構成からなる。直訳的に解釈すると「置いておくことができない状態」である。

 これは全くその通りで、アテトーシスというのは患者本人の意志と無関係に手足(特に手指)がゆっくりくねるような運動を起こす症状である。アテトーシスが出ていると、患者は静かに手足を置いておくことが難しい。

 

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 アテトーシスは基本的にそのままアテトーシスと表記されているが、Google検索すると「無定位運動症」という訳語が出てきた。なるほど、初めて見た訳語だけれど、なかなか収まりが良くてクールである。

 

無定位運動症を英語で・英訳 - 英和辞典・和英辞典 Weblio辞書

 

 ただアテトーゼ以外にも患者の意志に反して身体が動いてしまう症状はたくさんあるので、アレもコレも無定位運動症と言おうと思えば言えてしまう。おそらくそんな事情もあって定着していないのではなかろうか。

 

 

 ところで「無定位運動症」という言葉とは別に「無定位運動性kinesis」という言葉もあるらしい。

 こちらは生物学用語で、「刺激に反応して、生物の活動性や方向転換の回数が変化する現象」だという。例えば「ワラジムシは乾燥したところでは活動性が低く、動いても方向転換の回数が少ない。しかし乾燥したところでは活動性が高く、方向転換の回数が増える」というのが、無定位運動性だそうだ。
 乾燥した危険な環境では動き回るよう遺伝的にプログラミングされており、それによって湿った快適な環境にたどり着く可能性を高めるわけだ。そして逆に湿った環境だとあまり動かないようになり、留まるようにする。

 

 そして「無定位運動性」の対となる概念が「走性taxis」である。
 これも刺激によって行動が変化するが、刺激に対して向かったり遠ざかったりという方向性が定められている。これは例えば「マスが水の流れに逆行して泳ぎ続ける」ということだそうだ。
 水の流れに逆らう方向へ泳ぐようプログラミングされているお陰で、流されてしまうことがないし、口は常に川上=エサがやってくる方に向いている。
 湿度とゾウリムシの間の無定位運動性には方向性がないので、乾燥した場所から離れて湿潤な場所に留まる可能性を高めるだけで、乾燥した場所から遠ざかる・湿潤な場所へ向かうわけではない。

 

 「無定位運動性」も「走性」も、遺伝子によって生まれる前に固定化された行動で、こういった行動は「生得的行動」と呼ばれる。
 生得的行動はゾウリムシやマスのように単純なものばかりではなく、渡り鳥たちの渡りのような複雑なものもある。
 少し可哀想だが、ズグロムシクイという渡り鳥を渡りの時期に籠へ入れておくと、籠の中を飛び跳ねたり、止まり木の上で羽ばたいたりするらしい。その時のズグロムシクイは「渡りたい」と思うのだろうか、それとも「とにかく居ても立ってもいられない」と思うのだろうか。
 ゾウリムシやフナの例を考えると後者のような気がする。

 

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